※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
表面上なにも問題はない同居
今回のケースは今、とても増えてきておりますので同じ思いをされているご家族さまも多いかと思います。
世田谷区の地域包括支援センターからお電話をいただきました。
上野毛にお住いの78歳お母さまと同居しているご家族さまから、お母さまを施設に入居させたいのですが、どの施設が良いかなどを教えてほしい、といったご相談です。
早速、連絡を取りました。
ご相談者さまは会社の取締役で忙しくまた、自宅でのご面談に抵抗があるということでしたので初回は最寄り駅の近くにある喫茶店でお会いしました。
現状をお伺いするといくつかわかってきたことがありました。
お母さまは同じ世田谷区内に住まわれており長男さまのご自宅からそれほど離れてはいませんでしたが、お父さまが亡くなられているため一人暮らしです。
以前に階段から落ちて骨折したことがあり、一人暮らしに心配を抱いているご長男さまは、75歳を超えて足腰も弱くなってきたことからお母さまに同居を持ち掛けました。
お母さまは最初、同居を嫌がっておられましたが以前の骨折の件もあり、渋々了承されました。
奥さまも同居について理解を示されており問題もなく同居がスタートいたしました。
2年ほど経過したころ、お母さまが立つときや座るときにふらつくことがあることがわかりました。
介護認定を申請したところ要支援1であることがわかりました。しかし、社会生活に大きな影響はありません。
ご夫婦との関係も良好でした。
その後、奥さまがお仕事を辞められてから少し状況が変わってきました。
お母さまは天気が良い日などには積極的に出かけていたのですが、足腰がふらつくようになってからは出かける日が少なくなりご自宅でテレビを観るようになり、奥さまもお仕事を辞められて同じくご自宅でテレビを観てすごされていました。
すると半月ほどして嫁姑の関係値に変化が生じてきました。
それは目に見えるものではなかったそうです。
ご長男さまが気になったのは、奥さまとお母さまが同じ部屋にいる時間がほとんどないことだったそうです。
それまで食事なども一緒にされていたのですが、時間をずらしてお互いが食事をとるようになりました。
リビングに大きなテレビがあるのですがお母さまは自室にテレビを購入され自室で観るようになりました。
気になってお母さま、奥さまに何かあるのかと伺っても、「特に喧嘩などはしていないし問題もない」と言うそうです。
たまには一緒に食事をしようと誘うとお互い嫌がることもなく食卓を楽しんでいます。
そんな日々が1年ほど経過した現在、お母さまからご長男さまに対してある相談がはいったそうです。
その内容は、
「老人ホームに入ろうと思うので手続きを取ってもらいたい」
人間が持つパーソナルスペース
ご長男さまは理由が分からずに困惑され老人ホームに入りたい理由を訊かれました。お母さまは言葉少なに、
お母さま「なにか不満があるわけでは無いんだけども、どうも家にいると詰まってしまう感じがする。だから老人ホームに入りたい。」
最初、奥さまとの間に嫁姑問題があるのかと疑い、奥さまにも話を訊かれたそうです、すると奥さまも、
奥さま「24時間お義母さんと一緒になってから私もなにか窮屈さを感じています。だからと言ってお義母さまと仲が悪いわけでは無いです。でも、なんだか分からないけどあまり顔を合わせたくないって気持ちになっています。」
と言われたそうです。
大きな問題が無いのに別々に暮らしたいということで当初は困惑されたそうですが、お互いに同じ思いであることから老人ホームへの入居手続きを行いたいとの事でした。
実はこうした大きな問題などが無く、同居に抵抗があり施設への入居となるケースは増えてきています。
余談になりますが、これは人間が持つパーソナルスペースに関係があると思っています。
人間には自分を中心に一定の空間(※縄張りような感じ)が存在します。その大きさは人それぞれですが、他人が勝手にその空間に入ってくると不快に感じます。
例えば、混んでいる食堂などで相席を促されると本質的に何か嫌な気分になってしまうことがあると思います。これは相席する際、その方のパーソナルスペースに他人が入ってしまうことに起因します。
今回のケースもこれに近いことが起こっていると思われます。
奥さまはずっと住んできた家にお義母さまが同居されることに嫌な感情はありません。しかし、ずっと一緒になることで自分が好きに動ける家の中に、自分で管理できない存在が入ってしまったことに本能的な不快感を感じていると分析できます。
そして、お母さまはそれまでご実家で一人のびのびと暮らしていましたが同居することになり、他人の家に入ったことで気を使いながら生活しなければならず、自分の好き勝手が出来ないことが不快感になっていると分析できます。
家の中にたくさんの家族がいた昔の日本の住宅から生活様式が変化したことで、ご自身が持つパーソナルスペースが広くなっています。
今回は、常にパーソナルスペースに他者が侵入してしまうことで本能的な不快感となってしまっていると分析します。
上野毛の老人ホームへ入居
ご長男さまとお会いして現況をヒアリングさせていただき、ヒアリングシートを作成した後、施設探しを開始いたしました。
お母さまはお花が大好きでいけ花を趣味とされていました。世田谷区にある華道教室で月に1回程度、お稽古を受けられています。
そこで入居する施設はお稽古場所から離れていない場所をご提案いたしました。
ご予算については年金とご兄弟ですこしづつ援助することでお話がまとまりました。
ご兄弟のご負担される金額の決定はトラブルになりやすいため、無理のない金額の算出方法についてご説明を行いました。
※負担額の決定方法については「施設利用料を複数の家族で負担する場合に忘れてはいけない大切なこと」にて詳しく記載しております。
また、ご長男さまはお母さまのご実家を処分するべきか悩まれておりましたのでアドバイスを行いました。
紹介業者がご実家を処分してその費用を入居費に充てるように勧めることはあります。
それがベストな方法な場合もあれば、そうではないこともあります。
ご実家を処分すれば帰る家が無くなってしまうことになります。
ずっと老人ホームに住み続け看取りまでお願いするのであればそれでも良いでしょう。
しかし今回のケースではお母さまはまだまだ元気で状況がどう変化するかわかりません。
そのような場合、帰る場所を無くしてしまうことは得策とは言えません。
相談員としてできることは状況をご説明し、後悔しない選択肢を選ぶための情報提供までです。
そこで過去の例を複数お話いたしました。
結果としてご長男さまはご実家の処分を保留し、いったん様子見という結論を出されました。
今回のケースではご利用者さまに介護の必要がないため介護付き有料老人ホームの必要はありませんでした。そこで、ご長男さまの自宅から近く、世田谷の華道教室からも近いところにあるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を探すことがマスト条件となりました。
3件ほど条件と合致する施設がありましたので詳細をご説明をしたところ、そのうち2件を見学することになりました。
見学では私も同行し、その時初めてお母さまとご挨拶させていただきました。
とても聡明な方でお話もしっかりされておりました。
このような場合はご利用者さまに時間をかけてじっくりと選んでいただくことが失敗しない施設選択となります。
見学で施設を見るだけではなく、可能であればご利用者さまと少しお話をするなどの機会を作ってみると良いでしょう。 ※コロナ禍の影響から利用者さまと見学者さまの交流を避け、施設内の安全性を担保する施設はもあります。決して無理強いはしないでください。
見学から数日後、ご長男さまからお電話をいただき、お母さまと相談して入居希望施設が決まったので手続きを進めてもらいたいとのご依頼をいただきました。
ご依頼をいただき早々にお手続きをさせていただきました。
入居日は私もご挨拶させていただきました。
その後、3か月ほどご長男さまにご連絡し、経過についてお伺いいたしました。
すると、お母さまは施設でのびのびと暮らしており提案していただいた施設に満足しています、ありがとうございました、とおっしゃっていただけました。
お言葉をいただき選択が間違っていないことを実感いたしました。
老人ホーム選びにお悩みのご家族さまへ
こうしたケースは令和に入ってから本当に増えています。
当社でも相談事例としてかなりの数を担当しておりその根底にはご入居者さまが、
「家族には迷惑をかけたくない」
「認知症などを発症して家族に迷惑をかけたくない」
「老人として扱われるよりも親としてのイメージを残したい」
と、いった理由があるようです。ご自身が高齢になることでご子息やお孫さんに嫌われてしまうことを避けたという想いもあるようです。
昭和、平成初期ではあまり一般的ではない施設入居理由ですが時代のながれが変わってきたのでしょう。
他人に迷惑をかける可能性があるのであれば自ら行動を起こす、といった風潮は今後も顕著化してくると思われます。
ご家族さまと一緒に暮らし、最期を看取ってもらいたいのは皆さん一緒です。
せっかく仲良く家族で暮らせているのにお金を払って老人ホームに行く必要なんてない、というご家族さまの意見もあることは事実です。
しかし、ご自身が決定したことを少しだけでも良いので尊重してあげることもまた大切なのではないでしょうか。
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