※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
東山にお住いのご家族さまからのご相談
当社のフリーダイヤルに一本のご相談が入りました。
現在、介護付き有料老人ホームにご入居中のお母さまを一刻も早く安心できる老人ホームに転居させたい、という内容でした。
昨今、ご入居中の老人ホームが信用できなくて転居を希望されるご家族さまからのご相談が多くなってきております。
早速、お時間を頂戴してヒアリングを行いました。
まずはお母さまのADLをお伺いしました。
【お母さま:79歳】
食事:普通食(通常食)
歩行:車いす
排泄:全介助
更衣:全介助
義歯:上下
認知症:アリ(アルツハイマー型)
介護度:要介護3
日常生活のほぼすべてにおいて介助が必要でした。
認知症が進行していますが、かろうじて意思疎通はできる状態でした。
現在の施設には2年弱ほど入居しており当初はスタッフも信用に足る方が多く安心して預けることが出来たそうです。
しかし、半年前に施設長が変わると明らかにスタッフ数が少なくなってしまったそうです。
施設長に人員不足の事を伺っても、これまでの体制から変更し、人員についても変更をしていますが一過性で問題はない、の一点張りだったそうです。
少しすれば人員も増えてくるだろうと思っていたご家族さまですが毎回、面会に行ってもスタッフ数が増えている様子は確認できませんでした。
そればかりか、いつ行っても同じスタッフばかりで明らかに疲労の顔をしていることに不安を覚えたそうです。
施設長にいつになったら人が増えるのかを訊いても、募集しているので大丈夫だ、他の施設からのヘルプが来るからケアに問題はない、というばかりだったそうです。
そしてある出来事を境にご家族さまは転居を決意されました。
虐待寸前のケアと汚れた車いす
ある面会時、ご家族さまが面会に行くと共有部でお母さまが車いすでテレビを観られていたそうです。
ご家族さまがお母さまに挨拶をして部屋に行こうとすると、共有部のトイレからスタッフの声が聞こえたそうです。
そのスタッフは、
「腕をつかまないでもらえますか~。あなたがそんな態度だとこっちもお世話できなくなるんですけど。」
と言っていたそうです。さらに、
「今立ち上がるとまた汚れちゃうから座ってよ。頼みますよ、ほんとに」
と続けたそうです。
ご家族さまは驚いたそうです。
これまでのスタッフはお母さまに敬語で話しかけてくれていましたし、きちんとした対応をしてくれていました。
だからこそ信用していたのですが、この発言を聞いてある疑念が浮かんだそうです。
この施設は家族が面会に来た時だけ丁寧な対応や発言をしているだけではないのか?
普段の生活で、このような雑なケアが常態化しているのだとすればここにお母さまを預けることは出来ないと感じたそうです。
面会の終わりにそのことを施設長に話そうとするも施設長は出勤しておらず代わりにナースが話を聞いてくれたそうです。
また別の日に面会に行くとお母さまの車いすがとても汚れていることに気づかれたそうです。
いつのものだか分からないような乾燥して色が変わった食べ物が車いすのアームや座布団のヘリにくっついていたそうです。
さらに、その日のお母さまの洋服にも乾燥してカピカピになった食べ物が付着しておりました。
以前では考えられなかったそうです。
これもすべて人員不足によりまともなケア時間を取ることが出来なくなったためではないか?と思われたそうです。
お母さまの居室に行ってトイレを見るとパッドやオムツが乱雑に転がっており、汚物パッドを入れたビニール袋が転がっていたそうです。
ご家族さまはお母さまをこれ以上この施設に預けることは出来ないと判断されました。
そして、一刻も早くまともなサービスを提供している老人ホームに転居させなければ何が起こるか分からないという恐怖感を持たれたそうです。
まともな老人ホームを探してほしい
ヒアリングを受けて老人ホームの悪いところが全て出てしまったと感じました。
ご家族さまに施設の必須、充分条件を伺いすぐに施設探しに取り掛かりました。
◆必須条件
・一時入居金:0円~800万円
・月額利用料:35万円以下
・看取り対応
・スタッフがしっかりといる施設
・接遇がしっかりとしている施設
◆充分条件
・自宅から車で30分圏内が理想
東山から車で30分圏内であれば目黒区以外にも世田谷区や大田区まで対象範囲が広がります。
今回の件で大切なのはスタッフが充足している施設で接遇に力を入れている施設となります。
接遇とは接客業などでも使われ介護業界でもよく使われる言葉です。
一般的には接客サービスを指し、顧客への態度、言葉遣い、もてなしなどを意味します。
近年、介護業界では接遇改善に取り組んでいる施設が増えています。
接遇講習などを自前で行っている企業もあります。
介護での顧客とは「人」です。
本来、接遇がしっかりしているのは当たり前の事なのですがなぜか介護業界では接遇よりも身体介護のスキルばかりが優遇される風潮があります。
身体介護のスキルが高ければ、入居者さまへの言葉遣いはタメ語でもOK、子供扱いしても事故さえ起こさなければ問題ナシ、という悪しき風潮がまかり通っている施設も少なくありません。
当社ではそのような施設は紹介しません。
基本的人権を損なうようなケアは何があっても行ってはいけないと考えるからです。
ご家族さまも同じ意見でした。
目上の人に対する尊敬が出来ないような介護士は必ず何かしらのトラブルを起こすと考えておられました。
施設の候補はすぐに見つかりました。
しかしこのまま提案するわけにはいきません。
リストアップした施設の現状を探る必要があります。
特に、直近で施設長が代わっていたり、人が退職しているなどに注意してリサーチを行いました。
残念なことにある施設では一気に3人もの介護士が同時期に退職していることが分かりました。
当然ですがリストから外します。
またある大手の介護付き有料老人ホームでは人員不足を補うために多施設からのヘルプに頼っていることもわかりました。
これも当然ですがリストから外します。
こうして現状を調べて残った施設のみを再リスト化しご家族さまにご提案しました。
見学で見るべき大切なこと
ご家族さまから2つの施設について見学依頼を頂くことが出来ました。
見学を前にご家族さまに見学時の注意点についてご説明いたしました。
ご提案した施設は欠けシフトが慢性化するようなことは無い施設ばかりです。
※欠けシフトとは:本来必要な人数に足りないスタッフ数で運営する事。日勤時に6人必要なところ5人でケアをしている場合は1欠けなどと呼びます。
今回の見学で一番大切なことは接遇がしっかりしていることです。
接遇を見学でしっかりと見抜くにはそれなりのテクニックが必要です。
見学がある場合、施設は見学者が来ることを事前にスタッフに告知します。
見学者であるご家族さまが不快に思わないよう接遇に気を配るよう指令を出します。
普段からきちんとしていればアナウンスをすることなどありませんが、ほとんどの施設において見学時は特別対応をするようにアナウンスします。
施設が見学時にスタッフにアナウンスすることの例
・見学者を見たら立ち止まって挨拶をすること
・挨拶の際は両手を前で軽く組んで深々とお辞儀すること
・見学者には「こんにちは」など声がけをすること
・利用者さまの洋服が汚れている場合は着替えをさせること
・大きな声をださない
・タメ語は使わない
・入居者さまに声がけする時は必ず「様」をつけること
・楽しく働いていると思えるように笑顔を作る
このようなアナウンスが施設内で発せられているため、見学時に施設のリアルを把握するのは難しくなります。
では施設の実態を把握するのは無理なのでしょうか?
いえ、そんなことはありません。
今回当社がご家族さまに見学時に特に注意して確認するようにお願いしたことがこちらになります。
・スタッフの中にお局と呼ばれる影の権力者がいないか
・感情的に発言をするようなスタッフがいないか
・スタッフにタメ語で話しかけているスタッフがいないか
・車いすの移動速度が速くないか
・一人だけ大声を出して指示出しをしているスタッフがいないか
・利用者さまを友達であるかるかのように接しているスタッフがいないか
介護現場、特に老人ホームでは勤続年数が長くその施設で影の権力者のようになっているスタッフがいる場合があります。
業界ではそれを「お局」と呼び問題視されています。
お局がいるとその現場はお局の管理下に置かれることになります。
ハッキリ言えば何ひとつメリットはありません。
例えば、私は20年この施設で勤めているので入居者さんとの関係が出来ているからタメ語でも問題ない、と真剣に考えていたりします。
人事権を持っていないにも関わらず気に入らないスタッフがいるとイジメといえるような態度を繰り返し、退職する方向にもっていくなどもあります。
そして一番の問題は派閥を作ることです。
派閥に属さない人物は徹底的に排除に動こうとします。
それが丁寧なケア、きちんとした接遇をしているスタッフでも気に入らなければ排除に動くことが問題なのです。
このような現場では雑なケア、独りよがりのケアが慢性化します。
誰もお局に逆らえないからです。
そしてそのようなお局は見学者が来ても普段の態度を変えることをしないケースが意外に多いのです。
見学時にお局がいることを判断できれば施設の日常を把握することが出来るのです。
ご家族さまは当社の見学時のアドバイスを受けて神妙な顔をされていました。
見学終了時に出た感想
2つの施設を見学し感想を伺うお時間を頂きました。
ご家族さまは当社のアドバイスを参考に見学をされていました。
A施設:
ご家族さま「お局さまのような人はいなかったと思います。利用者さんの洋服なども汚れが目立つようなことはありませんでした。年齢の異なるスタッフ同士が仲良く仕事をしている感じがしました。」
B施設:
ご家族さま「一人それっぽい人がいたような気がします。他のヘルパーさんに対して強気な言葉で指示を出していましたね。その方だけ私たちを見ても会釈するだけでした。他のヘルパーさんはみなさん挨拶もしっかりしてました。」
入居相談員の見解もおおむね一緒でした。
入居相談員としての見解をご説明いたしました。
A施設:
・共有部のトイレなどは清潔で浴室も便臭などは無く清潔に保たれていた。
・レストランは掃除がしっかりとされておりテーブルにトロミ水によってできた汚れなどは無かった。
・レストランでの見守りもしっかりとしておりスタッフ連携が取れていた。
・入居者さまとスタッフの間のコミュニケーションは良好だった。
・お局の存在は確認できなかった。
B施設:
・おそらくは経験年数の長いスタッフがおりある程度の権力は持っていると思われる。
・現場歴の長いスタッフがテキパキと指示だしをしているが指示されたスタッフに不快感などは無かった。
・全体的にスタッフ同士のコミュニケーションが希薄と思えた。
・レストランに認知症の入居者さまと転倒の危険性がある入居者さまを集めて一元管理していた。
・スタッフのあいさつにぎこちなさを感じた。
確かにB施設には一定の権力を持っていると思われるスタッフがいましたが、お局というよりは全体を見通して残業無く仕事が終わるように指示出している感じだったのでいわゆる派閥的なものは感じませんでした。
ただ接遇についてはバッテンです。
むしろ、スタッフのあいさつにぎこちなさを感じたことが問題だと思いました。
恐らく日常の接遇は見学時とかけ離れており、この点についてはA施設程徹底はされていないと思われました。
ご家族さまには他の施設についても見学をしますか?とお尋ねしました。
すると、2,3日考えてから改めてご連絡します、とのお言葉を頂きました。
転居先の決定
3日後、ご家族さまからご連絡を頂きました。
見学したA施設に移ることを決定したので手続きに入ってほしいということでした。
決定の理由をお伺いしました。
するとご家族さまから以下の理由を頂くことが出来ましたのでこの場で紹介します。
・施設長の身なりがしっかりしており接し方に好感が持てた。
・B施設よりも施設が新しくきれいだった。
・スタッフが仲良く働いていていることから風通しの良い施設だと思いここなら安心してお願いできると感じた。
・あるスタッフが認知症の利用者さんに話しかける時に自然に膝をついて目線を合わせる行動をとっており接遇がしっかりとしていると感じた。
ちなみにB施設については見学終了の段階ですでに候補から外れていたそうです。
その理由の一つとして、施設長が入居前提で話をしており一時入居金を値引きすれば入居してくれるのか、といった営業面での話しばかりだったからでした。
A施設に連絡をして転居に関する手続きをすべて完了し転居日が決定しました。
当日は別の入居相談が入っており私は行くことが出来ませんでした。
ご入居後の様子
ご入居から1か月ほどして、ご様子伺いのお電話をいたしました。
ご家族さまは週1回ペースで面会されており、その都度施設の日常を知ろうとされていました。
現在のところ特におかしなところはなく転居は成功だったと仰っていただけました。
何か気になるところがあれば気兼ねなくご連絡ください、とお伝えし今回のケースをクローズといたしました。
なぜお局がうまれるのか
文末になりますが施設のリアルについて少し私見を書いておきたいと思います。
施設は施設長によりその様相が大きく変わることがあります。
それだけ施設長の影響が大きいということです。
そのため多くの老人ホームにおいて施設長は3年を平均に転勤を繰り返します。
実はこのシステムこそがお局を生み出してしまう要因にもなっています。
責任者である施設長が3年周期で変わったとしても現場のスタッフの転勤はそれほど多くはありません。
※現場スタッフの転勤についてはこの場では割愛いたします。
そのため同じ施設で10年以上も働いているベテランスタッフが施設長よりも権力を持ってしまう構造的な問題が出来てしまうのです。
それが悪いことだけとは言いません。
その施設のすべてを俯瞰で見ることが出来るベテランスタッフの存在メリットは計り知れません。
しかしそのようなベテランの中には自分なりの介護感を強くもつ人がいることも事実です。
強すぎる介護感は特に周りを巻き込んでしまいます。
私のいうことが聞けないのであればこの施設を去ってほしい、と思うベテランもいるのです。
老人ホーム運営会社の多くはこうした強すぎる独自の介護感を持ったスタッフが生まれないように、定期的にスタッフを転勤させるなど対策を講じています。
しかし、そのようなベテランスタッフは転勤を断る傾向が強いのです。
介護業界の深刻な人手不足により現場スタッフを充足するだけでも大変なのに、ベテランが居なくなってしまうのは介護施設にとって大きな打撃になります。
そのため、ベテランスタッフを転勤にすることもできずその場に留めておくしかできなくなります。
結果としてベテランスタッフはさらに強い影の権力者になってしまうことがあるのです。
私が介護士としていくつかの介護現場で働いていた時、お局と呼ばれるベテランスタッフがいる現場に遭遇したことがありました。
結論から言えばお局がいる現場ほどスタッフの定着率が悪く、新卒の若い子や経験豊富な中途採用のスタッフでさえも辞めてしまうことが多かったです。
お局に意見するよりも退職して他の現場に行った方が楽だからです。
その現場は常に人手不足で欠けシフトが当たり前のようになってしまい、既存スタッフも疲弊して辞めてしまうという負のスパイラルになっていました。
これから老人ホームを探そうとされているご家族さまは老人ホームのこうした現実も知った上で、見学の時間を有意義に使うことをアドバイスいたします。
ちなみに、当社の入居相談員は現場で働いてきているためこうした施設のジレンマを数多く経験しています。
その見地から入居先のご提案を行っております。
入居先の老人ホームに何かしらの疑問を持たれているご家族さまは先に当社がアドバイスした内容をメモして面会に行ってみてください。
それだけでも多くのことが見えてくると思います。
当社では転居に限らず老人ホームのご入居相談を行っております。
ご利用に関して費用が発生することはございません。
気になる方は、以下よりお気軽にご相談いただければ幸いです。
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