※相談事例は全てご相談者さまの了承を得て記事化しております。
施設でリラックスした生活を送る日々
統合失調症を患い、度重なる問題行為で老人ホームを転々としていた68歳になる息子の介護を続けていたお母さまは、息子と一緒に入居することで安心した生活を送っていました。
これまで老人ホームを3回転居してきましたが、ようやく落ち着いたと安堵し、鎌倉の施設で生活が始まってから1年半が経ち、お母さまがお亡くなりになりました。
最初の入居条件は母親も一緒に入居することでした。
お母さまが亡くなられ契約条項の再確認が行われました。
しかし、本人も老人ホームでの暮らしに慣れ、スタッフや他の入居者さんとの関係性も良好であったことから、このまま入居を続けられる事が決まりました。
暴力等の問題行為があった場合は退去という事を本人も十分に理解していましたが、不幸は外からやってきました。
老人ホームから嫌われてしまったご家族さま
身元引き受け人(保証人)は本人の姉にあたる長女がサインしていました。
当初、面会にはこの長女さんが一人で行っていましたが、ある時から旦那さんが一緒に来るようになります。
本人と義兄さんの仲はそれほど良好ではありませんでしたが、適度な距離感を保ちながら接するなどの配慮から問題はありませんでした。
ここで少し皆さまにご質問したいと思います。
◆ご質問◆
老人ホームに嫌われてしまうご家族さまってどんな人でしょう?
クレーマー、職員に対する態度が高圧的、要望が多い、私たちは特別と思っている、毎日面会に来るなどでしょうか?
今回の事例で問題となってしまったのは、義兄さんがとられた老人ホームスタッフへの態度でした。
言葉が少しきつくなりますが、スタッフへの非礼といえる態度というのはこの方が特別ということではありません。
これまでの相談員としての経験上、お仕事で管理職だったタイプに多くみられるのですが、この方も管理職でした。
お仕事で部下を抱えマネジメントする管理職というポジションで長らく働かれていたためか、ご本人さまが意識せずにスタッフへの態度が高圧的となってしまい、圧倒的なクレーマーとなってしまっていたのです。
例えば、老人ホーム敷地内の駐車場に入った時に、
義兄さん「なんで出迎えに出てこないんだ!?車が入って来るのを見てすぐに出て来るのが当たり前だろ、どこに停めたらいいのか誘導しろ!」
◆義兄さんの問題発言
「俺は清潔だから手洗いもうがいも必要ない」 「だから介護職は底辺なんだ」 「親からろくな教育を受けてないだろ?」 「もっとちゃんと車椅子に座らせろ」 「シーツがしわだらけじゃないか」 |
にわかに信じがたいと思われる方もいらっしゃるとは思いますが紛れもなく事実です。
残念ながら義兄さんが施設に来るとこのような罵詈雑言が毎回繰り返されたそうです。
あまりに理不尽な物言いが多く、これではスタッフは参ってしまいます。
事実、この施設のスタッフから施設長に対して、
スタッフ「あの人が面会に来て、こんな言われ方をするなら辞めます」
というスタッフも出る事態に発展してしまい、再び老人ホーム側から退居における受け入れ先の老人ホームを探す入居相談が入りました。
介護サービス全般に言える事ですが、介護事業者は介護される本人との付き合いだけではありません。
そのご家族さまとも関わりの深い付き合いをしていきます。
本人に問題はなくても、そのご家族さまの問題で敬遠されてしまう場合もあるのです。
老人ホーム入居に際して施設側はご本人さまだけではなく、ご家族さまとも付き合っていくという事も念頭に入れて見学時や面談時の態度などを見て判断を行います。
最初からご家族さまに問題がありそうだと判断されてしまうと、入居を断られることもあります。
見学時のご家族さまの態度があまりに高圧的で横柄であったり、ご家族さま間の意見の食い違いから、その場で兄弟喧嘩を始めてしまったことを施設側が問題とし、入居を敬遠された事例も多くあります。
老人ホーム側もご家族さまがどのようなタイプなのかを判断するため、事前カウンセリングを行うことも少なくありません。
なんどか転居を経験されているご家族さまの場合、最初は老人ホーム側に猫を被った対応をしていて、段々と素の姿がでてしまう、ということもあります。
しかし、今回の義兄さんのケースでは面会に来た初回から高圧的な態度だったため施設側では、どうしたものか?と頭を抱えたそうです。
見つからなかった根本的解決
義兄さんが老人ホーム側との向き合い方や接し方を改めて良好な関係を築いていく事が一番好ましいのですが、残念ながらそれは見込めませんでした。
そこで長女さん夫婦に時間を作ってもらい、相談員である私と三人でお話をしました。
その時は、わかった、気をつけるとおっしゃるのですが、実際に面会にいくとスタッフに対する態度や言葉遣いは変わらず、最終的に老人ホーム側もこれ以上は難しいとの判断となってしまいました。
次の施設を探してほしいとのご依頼をいただきましたが経験上、ここで退去となっても入居を受け入れてくれるところを探すのは難しいのが実情でした。
そこで改めて三人で話し合うお時間をいただき素直に現状をご説明いたしました。
最初義兄さんはかなり激高しており、
義兄さん「高い金を払ってるのにサービスの提供拒否とはどういうことだ?怠慢も甚だしい。訴えることはできないのか?」
と、仰っていました。
そこで入居相談員としてではなく、元介護士として義兄さんにお話をしました。
元介護士「すべてのサービスに言えることですがお客さまは神様ではありません。お金を払っているからエライということでも無ければ、お金をもらうからすべてを受け入れなければならないということではないのです。」
元介護士「申し訳ありませんが、ご入居者さまはこれまでにもセクハラ、暴言暴力といろんな問題があり受入れをしてくれる施設はほとんどありませんでした。
その中で今の施設が受入をしてくれのです。」
義兄さん「だからなんだ?お前だって施設から紹介料をもらってるんだろ?当たり前のことを偉そうに話すな」
元介護士「ご入居者さまはこの1年で施設での生活を楽しんでいます。それは施設で働くスタッフの努力のたまものでもあるのです。
その努力に対して、介護士なんて底辺だとか、教育を受けていないから介護士なんて職業に甘んじてるんだろ、なんて失礼にもほどがあります。」
元介護士「失礼を承知で元介護士として一言だけ言わせていただきます。人の仕事をバカにするな、介護士をバカにするな。失礼しました。」
元介護士としてお話しましたが響きませんでしたので、現実的なお話をいたしました。
元介護士「仰る通り紹介相談員はビジネスです。だからこそビジネスを円滑に進めるためにどうすればよいかについてご説明をしているわけです。ここを退居することになり次を探す費用対効果を考えれば金額に見合いませんので当社は今回の件についてご紹介をお断りさせていただきます。それでよろしいですね?」
義兄さん「ずいぶんな口をきくじゃないか。原因はオレにあるってことなんだな?じじゃあ俺がホームに行かなきゃいいんだろ?それでいいんだろ?」
長女さまからも、義兄さんは今後、老人ホームには行かない、関わらないということでなんとかまとまりませんか、とのご提案がありました。
鎌倉の施設長に感謝そしてプロとしてのプライドに敬意
ある意味での対処療法を老人ホーム側が受け入れてくれるか難しいところでした。
施設側としては、
ここで受け入れを継続してもまた同じことがおこるくらいなら退居していただく方がリスクが少なくて済む
なのです。
元介護現場で働いていた私として痛いほど施設側の思いもわかるのですが今は入居相談員です。
数回に分けて、ていねいに粘り強く説明したところ、それならばもう少し様子を見ましょうという事でご納得いただけました。
ハッキリ言えば奇跡だと思います。
受入継続について、追加条件が付きました。
長女さんが動けなくなったときには、成年後見制度の検討を視野に入れるなど諸条件が付きましたが何とか落ち着きました。
おそらく施設内のスタッフとの調整に長時間を有したことは明らかです。
その上で、一人の退職者を出すことなく受入まで持って行った鎌倉の施設長には感謝しかありません。
また、受入継続が決定した後、ご入居者は毎日をとてもリラックスして過ごされていることが長女さまより報告されました。
長女さま「私が面会に行っても嫌な顔せずに立ち止まって深々と挨拶をしてくれます。こんにちはと言ってくれます。」
老人ホームは介護に対して日々、真摯に向き合っております。
ご家族さまが気に入らないから本人にいじわるをするなどということは決して無いと思いますが、そこで働くスタッフと暮らすご本人さまのより良い生活を保つ上でご家族さまとの付き合い方はとても大切なことです。
介護施設で働いているのは人間です。
介護スタッフが気持ちよく働いてくれることは、暮らす人の生活の向上に繋がってきます。
いま、老人ホームをご利用されている皆さまにおかれましては、ご訪問時にスタッフにひとことで良いので労いの言葉をかけてみてください。
その一言でスタッフは前向きになり、明るい老人ホームになっていくのだと私は思います。
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